理論的枠組みの学習

2017年6月14日(水曜日)本日の要旨

全体の流れ:

本日の全体の流れは、まず講義の前半でWoodall先生による複数の理論の概要と各々の問題点についてのレクチャーがあり、グループワークを挟んでJICAからお越しの原さんによるODA及び国際協力の現在の状況と課題、加えてイラクにおけるJICAの働きについての講義という流れでした。

Woodall先生の講義:

Woodall先生による講義では、様々な理論的枠組みの概要とその主な問題点が取り上げられました。これらの理論的枠組みを踏まえて、生徒たちに大垣と東京におけるSDGsについて考えもらうことが大きな目標となります。近代化・発展のシステムに注目した理論では、社会ダーウィニズムに基づいた全ての社会の均質的な発展が前提とされ、「伝統的な社会」から「近代的な社会」への一直線の移行が唯一の発展モデルとされることが示されました。このモデルの社会の理解は極めて制限されたものであることが、実態としてそれぞれの社会が都市部と周辺部の相互関係に基づくことから提示されました。文化に注目した理論では、それぞれの国にはそれぞれに特有な「文化」がありそれがその国の在り方を規定すると考えるものですが、そもそも「文化」とは何であるかという定義の難しさ、トートロジーに陥る点などの問題点が挙げられました。社会システムに注目した理論では、地球の南北であらゆる面で格差が生じていることを説明するために、Global NorthによるGlobal Southの植民地化及び搾取の爪痕と現在も残る南北の不平等な貿易の実態が格差の理由として挙げられます。加えて、国の成功の為には経済的かつ政治的に包括的な制度を導入する必要があり、国の失敗は一部の人に権力が集中する「抽出制度」が主な原因だと捉える理論を学びました。個人や組織の合理的な経済的判断を前提とする理論では、完全に合理的な判断を下すことの非現実性が問題点として挙げられました。この理論に基づくネオリベラルな経済政策はさらなる国家間の不平等を招く恐れがあることも示されました。「組織」に注目した理論では、文化という組織、政府という組織など組織を単位として様々な物事の決定がなされているという考えを学びました。組織が強く意思決定に関わると、「経路依存」と呼ばれる変化の難しさが課題となりますが、変化への「転換点」は存在し、その例としてアメリカ合衆国独立や9.11が挙げられました。ステークホルダーについては、サステイナビリティを実現するためにはさまざまな種類のアクターが協同することが重要であると示され、国内外のステークホルダーが一体誰であるのかという点が政治的に重要な争点として挙げられました。以上の理論的枠組みを踏まえたうえで、生徒たちには大垣と東京のSDGsについて考察をしてもらうことが本日の講義の大きな目標です。

グループワーク:

講義に続くグループワークにおいて、あるグループでは大垣の持続可能な開発について具体的なプランを練る話し合いが行われました。経済、社会、環境を三つの指針として設定し、同時並行でそれぞれの領域にアプローチするやり方を話し合いました。加えて、それぞれのプロジェクトの実施期間の長さによって短期、中期、長期の三つに区分しました。大きく分けて、若年者の減少と社会資本の欠如が大垣における問題として設定され、それに対して企業のオフィス誘致、観光業の活性化、学生への奨学金など多岐に渡るプロジェクトが提案されました。持続的な開発を達成する為の課題の一つとしてどのプロジェクトにも関わる問題は、大垣に人や企業などの資本を集める為には大垣にそれだけの求心力がなくてはならないという点でした。何が大垣の魅力であるのか、もしくは何を大垣の魅力として生み出すのかという点については、活発な議論がなされました。持続的に経済、環境、社会が循環し発展していく為に、大垣に継続的に資本が集まるような「何か」が必要であるという点では、生徒たちは暗黙の了解をしているようでした。議論によって、大垣のような地方の土地で「持続可能な」開発を達成する為の大きな課題が一つ見えたのではないでしょうか。

写真 岐阜県立大垣北高校校長室にて(6月9日)

左より石神政幸先生(同校教頭)、ウッダール先生、ニューステッター先生、蛭川義高先生(同校校長)