大学と社会の協同の在り方とは:Gregory先生

2017/07/11 Wednesday

 

本日の全体の流れ:

本日の前半はJenny先生による短いレクチャーがあり、その後仙台、東北大学からお越しのGregory先生によるレクチャーがありました。タイトルはSustainability co-creation between universities and societyで、大学と社会の協同の在り方についてでした。その後Jenny先生によるSLSについてのレクチャーが再びあり、最後にJenny先生とGregory先生と生徒たちで話し合う時間が設けられました。

 

本日の講義:

本日の授業の前半では、Jenny先生による短いレクチャーがありました。授業の最初には、Jenny先生が仙台の東北大学から来られたGregory先生を生徒たちに紹介されました。その後、グループに分かれて担当地区で行った調査について報告をしました。あるグループでは、商店街や住宅地で参与観察をしたそうです。地域のGreen Spaceの写真を撮るなどしたようです。他のグループでは、写真に加えてボイスメモを使って記録をしたとのことでした。実際に店のオーナーと話をしたグループもあり、会話に加えて用意していた質問もしたとのことでした。あるグループではお年寄りに話を聞いてみたそうで、Jenny先生もそれは重要な調査であると指摘されました。お年寄りは長くそのコミュニティに住んでいることが多く、その地域の歴史、過去からの変化などについて知っていることがあるといいます。それらの知識を聞き出すことで現在は見えないそのコミュニティの過去について考えることもできます。Gregory先生も、特に日本のコミュニティにおいてはお年寄りにインタビューをすることで得られるものが多いといいます。Jenny先生は、Indigenous Knowledge、土着の知識、という概念を紹介され、しばしば現在よりも持続性のあった過去の在り方について目を向ける必要性を指摘されました。Jenny先生は調査を楽しんだか、そして何がうまくいったのかという質問を生徒にされました。ある生徒は、インタビューは楽しかったし、インフォーマントもアメリカから来た生徒たちについて興味を持ってくれたと言っていました。生徒たちとコミュニティの人々でお互いに学びあうことができたようです。ある生徒は実際に掲示板などがどこにあるのかを記録し写真をとってマップを作っているそうです。公園で人々が何をしてるのかを記録した生徒もいました。Jenny先生は、一見持続可能性に関わらないような住民の行動が、実際に持続可能性を考える上で視野を広げることに繋がったり、新しい発見をもたらすことがあると指摘されました。一方で、調査をするうえで不快だったことや困難だったことを聞かれると、ある生徒は実際に調査をした結果、その地域と東京工業大学の関係があまり見えなかった点を挙げていました。この点に関して、関係のないように見える、ということも関係性の在り方ではないかという指摘がほかの生徒からありました。Woodall先生は、東京工業大学で働いている阿部先生に聞いてみるのも手であるとアドバイスされていました。Jenny先生も、最初はまずコミュニティについて知ることを重視し、その後で大学との関係について考えればよいとアドバイスされました。Jenny先生は、実際に公園などにいる人々と話してみることを勧めていました。実際にその地域に住んでいる人々と話すことでコミュニティへの理解も深まると期待できますね。

休憩の後、Gregory先生によるレクチャーがありました。テーマは、大学と社会が持続可能性に向けて協同する在り方についてでした。スイスとアメリカにおける2つのケーススタディも紹介されました。大学と社会の関係性の背景として、大学の在り方の変化が示されました。従来大学は知識を創造し、それを社会が学ぶという関係性を志向していたということです。しかし、近年では大学も学外の組織と協同することも増え、大学主導のトップダウン的関係は薄れてきているようです。大学の果たす機能として研究、投資、文化の創造、技術の革新などが挙げられ、これらの様々な機能が複合的に働くのが大学であると示されました。大学の機能自体も時代によって変化していることも指摘され、大学の創成期には宗教的な教育が主な目的であったが、その後主にドイツで研究という目的が加わり、後に経済に関わる知識を生み出すことも目的として発生したということです。さらに近年では技術の開発も大学の機能として発生しているということでした。従来大学の研究や社会との関わり方はUniversal/Globalで大規模のものが中心でしたが、現在では特定の地域に注目し、そこでのアクターと協力するという姿勢が増えてきているとのことでした。大学において、知識が社会変化をもたらすための道具としてみなされるようになってきているとのご指摘でした。Co-creationにおける分類としては、それが社会に注目したものであるのか、もしくは技術中心であるのかという違いと、社会変化への関係の度合いが強いのか弱いのかという分類ができるとのことでした。

実際の大学と社会の関係性の在り方を見るために、二つのケーススタディが紹介されました。まずは、スイスのバーゼルで行われた「2000ワット社会」という政策が紹介されました。これはスイス連邦工科大学(ETH)が1998年に構想した政策であり、生活の質を落とすことなく、一人当たりのエネルギー使用量を年間2000ワットにしようという試みです。バーゼルではその初期に実験的な取り組みが行われました。この試みでは、プライベートセクターからも専門家を集めてパートナーシップの強化が図られたということです。実際に行動に移す際には政策立案者と科学者の会議が開かれたそうですが、なかなか意見はまとまらなかったといいます。バーゼルの人々が求めるものは建物の建設など短期のものでしたが、科学者が考えているのは長期の計画であったそうで、結果としてその中間をとるような結論にたどり着いたとのことでした。実際に、短期でのプロジェクトとしては、タクシーに燃料電池自動車を導入したり、企業の使用する車を低燃費のものに変更したりしたそうです。長期的なプロジェクトとしては、実験的な車や機械を実際に現場で使用してもらい、その改良と導入へむけての研究が進められるなどしたそうです。特にGregory先生が取り上げたのは建物の側面にカラフルなソーラーパネルを設置する試みで、技術的な挑戦に加えて景観や作られる電力量の増加など社会的な受容にも配慮したものであったとのことでした。確かに、カラフルで建物を覆うように設置されたソーラーパネルは、よく目にする黒いパネルよりもデザイン性が高いですね。このバーゼルでのETHと社会の協同の試みは、結果として技術に集中したものであり、その点が短所でもあったといいます。技術的な関心の高さが原因になる実際にバーゼルの人々にプロジェクトに参加してもらうことが困難であったようです。そこから、Gregory先生は人々へ注目し、働きかけることが重要であると気づいたとのことでした。技術も大事ですが、それに加えてそれを使用する人々への配慮も大切ということですね。

もう一つのケーススタディは、アメリカ、オハイオ州オーバリンでのプロジェクトでした。オーバリン大学がオーバリンの開発に社会と取り組んだプロジェクトです。オーバリンのニーズとして、化石燃料に頼った経済の在り方を、より持続可能なものに改善したいというものがあったといいます。オーバリンのプロジェクトでは、ダウンタウンの開発、経済の変革、気候の安定などが目標として掲げられたそうです。その中でも、温室効果ガスはどこからどれだけ排出されているのかというデータは大学生が集めたそうで、このプロジェクトでは生徒の協力が目立ったようです。Environmental Dashboardという、その地域でどこがどれだけエネルギーを消費し、また生産しているのかなどが分かるダッシュボードを制作し、コミュニティの人々に環境問題へ興味を持ってもらうきっかけにしたといいます。そのダッシュボードではCommunity Voiceといってコミュニティの人々へのインタビュー結果も載せていたそうで、社会との関わりを重視する姿勢が窺えます。このインタビューも大学生が行ったということです。オーバリンでのプロジェクトでは、社会との結びつきを重視した点が特徴であるとのことでした。このプロジェクトから言えることは、変化をもたらすのは非常に難しいということ、人々の参加を促すことが重要であるということ、そして生徒たちの貢献が見られたことの三つであったといいます。スイスのプロジェクトと比べると、技術に集中したプロジェクトと社会に集中したプロジェクトの違いが見えてきますね。

Gregory先生のレクチャーの後、Jenny先生によるジョージア工科大学でのSLS: Serve-Learn-Sustainというプログラムについての説明がありました。SLSは、ジョージア工科大学における、今回のジョイントプログラムもその一部である大規模な教育プログラムです。そのミッションとして、生徒の教育、教員のキャパシティを広げること、ジョージア工科大学のパートナーシップへの参加を促すことが挙げられています。Jenny先生によると、もともとはこのプログラムは教室内で行うレクチャー中心のものであったそうです。しかし、Jenny先生が大学の外でなければ学べないことも多くあると力説し、現在のようなフィールドでの活動を含めた形式になったそうです。このプログラムの特徴は、生徒、教員、実際の社会との結びつきを重視する点にあるといいます。学内外に関わらずパートナーシップを強化すること、そして座学だけではなく実際に現地で学ぶことを重視しているようです。ここで、Jenny先生からService LearningとCo-creationの違いについて質問がありました。ある生徒は、Service Learningはより短期間で行うものであり、Co-creationはより長期にわたって持続的に関わりを持つものであると回答していました。Jenny先生は、Service Learningでは問題がすでに設定されており、サービスの提供者と「受け手」が明確に分かれると指摘します。一方で、Co-creationでは自分のスキルを持っていき、そこで何ができるのかをそのコミュニティの人々と一緒に考え、関係を築くそうです。Co-creationのほうが、より持続可能性に近づく可能性が高いということですね。

Jenny先生のレクチャーの後休憩をはさんで、グループに分かれて質問や話し合いたいことを決め、Jenny先生とGregory先生と生徒たちで話し合いを行いました。ある生徒は、バーゼルでのソーラーパネルの設置資金はどのように集めたのかという質問をしていました。Gregory先生は、ソーラーパネルの資金を集めるには利益対費用での説明では弱いため、その教育的かつ技術的な価値を行政に説明したそうです。資金の取得にも戦略が必要なのですね。Jenny先生は、研究者と市のパートナーとの対立はどのように解決するのかという質問を投げかけられました。Gregory先生はその質問を受けて、スイスとフランスが共同で行った太陽光発電の飛行機を飛ばすSolar Impulseというプロジェクトについて言及し、このプロジェクトは飛行機を太陽光発電で飛ばすという極めて技術的な関心の強いものであり、実際の利益や短期間での成功は見込めないといいます。それにも関わらず、このプロジェクトが実現したのは将来何かにつながるかもしれないという「夢」がそこにあるからだとのことでした。実際の利益だけが人々の心を動かすわけではなく、技術的な革新の持つ将来への「夢」のあるプロジェクトも人々を惹きつけるのですね。その他にも、生徒からはプロジェクトの志向する「変化」を人々に強制することの問題点や、プロジェクトの実施に際してその地域の規模や状況がどのように影響するのかという質問も上がりました。特に日本において高齢化が進んでいることを受けて、Gregory先生はmobilityについてお話しされました。日産の技術開発が、社会の人々の関心の変化を受けて変わってきていることが指摘されました。現在では人々の関心が安心や環境問題から、個人のMobilityに移っており、それを受けて一人乗りの小さな自動車や自動運転の自動車を日産は開発しているそうです。高齢化が進めば、それらの技術が活用される日も近いかもしれませんね。このエピソードの需要な点は、人々のニーズや関心が技術とどのように呼応しているのかが窺える点であるといえます。最後に、Jenny先生から写真やノートを駆使して現地調査を進めるように指導があり、今回の授業は終了しました。