2017/07/10 Monday
本日の全体の流れ:
前半は、Woodall先生によるレクチャーでした。タイトルは、Challenges of Environmental Protectionで、主にアメリカと日本におけるエネルギー政策について学びました。後半は、東京とアトランタにおけるエネルギー問題に取り組むグループワークでした。
本日の講義:
授業の最初には、Woodall先生が生徒たちに日本のどこへ旅行をしたかを尋ねられました。生徒たちは、富士山、仙台、金沢などに行ったようです。様々な地域を訪ねることで、日本におけるコミュニティの在り方や環境について理解が深まると良いですね。
Woodall先生によるレクチャーでは、まず主要な公害について学びました。「公害」の歴史としては比較的初期のものである1952年のロンドンスモッグから始まり、日本における環境運動開始の契機となった日本の四大公害(水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病)、1969年のカヤホガ川の火災(クリーブラント)、1978年のラブキャナル事件(ニューヨーク)などが公害の例として挙げられました。これらの例が示された後問われた質問は、なぜ、これらの公害が起こったのかというものでした。生徒たちは、企業や政府の短絡的な視野や、経済的利益を第一に追求する姿勢、規制が緩いことなどを挙げていました。Woodall先生は、企業の経済的な利益の追求がこれらの公害の大きな原因であったと指摘されました。公害問題については、4つの困難な点があると示されました。一つ目には、The tragedy of the commons, コモンズの悲劇が挙げられました。人々が経済的に「合理的」な行動を取れば、資源は枯渇してしまうという法則です。二つ目は、Social costs、社会的費用が示されました。個人や企業が経済活動を行った結果、社会全体や第三者が被る損失のことを指します。三つ目は、囚人のジレンマでした。環境保護にはコストがかかるため、それを実現することと経済的な利益の追求にはどうしてもジレンマが生じることがあります。四つ目の困難は、Collective Action problem, 集団行為問題です。個人としては合理的な行動が集団としては非合理な結果となってしまう問題のことを指します。公害は空気や水などどの人も排除できない性格の資源が関わりますが、その保護に関してはフリーライダー問題も発生する性質の問題であるため、解決が困難であると言えます。これらの困難を踏まえて、それでは環境保護をどのように成功させるのか、という課題を考えました。政策に影響を与えるのは、実際は大手の石油・ガス会社であると指摘されました。なぜ大手の石油・ガス会社が政策に影響を与えるのか、という質問に対しては、生徒たちはロビイング、政治の領域とのお金での繋がりなどを回答していました。実際に、なぜ大手の石油・ガス会社が政策に大きな影響を持つのかというと、彼らのグループは少数の大企業が密接に関わりあっているからであるということでした。彼らは少数であり、かつ互いの結びつきが強い故に、意見をまとめて協力し政策の実現に圧力をかけることが可能になります。一方でDispersed interestsと呼ばれる状況では、アクターが小規模でかつ多数存在するため、協力が難しく、したがって政治的な力を持ちにくいということになります。
Hardinによるとコモンズの悲劇を回避する方法は、一つの強力な組織による決定権の強大化(Centrism)、もしくは組織や個人が各々の地域に集中するようなPrivatizationの二つが挙げられるそうです。これらの解決策に加えて、Elinor Ostromによるトルコの漁村における調査も紹介され、そこでの調査からOstromは、コミュニティ内における信頼関係の構築と、強力なステークホルダーの存在がコモンズの悲劇を防ぐと指摘したことが紹介されました。
続いて、環境政策におけるステークホルダーを、アメリカと日本のそれぞれで見ていきました。まずは、アメリカにおける環境政策に関わるステークホルダーを学びました。アメリカでは、政治システムの特徴として国家レベルにおける分権が重視されていること、二党政治であること、個人の自由と私的所有権が重視されていること、などが挙げられました。これらの特徴を反映して、アメリカにおける環境政策のキーアクターは、大統領、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)、アメリカ合衆国エネルギー省であるようです。アメリカでは市民社会レベルの環境保護に関わるアクターも多数存在しますが、市場での石油・ガス会社はスケールが格段に大きく、政策に与える影響も大きいということでした。アメリカでは州ごとの環境保護への姿勢は様々であり、その理由としてその州が資源を有するかどうかという点が重要であると指摘されました。日本では、中央政府の権限が強いこと、自民党の実質上の独占状態であること、個人の権利よりも集団での利益が重視されることなどが特徴として挙げられました。特に、自民党との結びつき強い組織は政策への影響力も必然的に大きくなることが指摘されました。例として、日本の米農家が挙げられ、日本の米の価格が高いのは日本政府が農家から米を買い取り価格の調整をしていることが紹介されました。また、日本の政党には環境問題に重点を置くGreen Partyが無いことも指摘されました。省庁間の力関係も示され、日本では最も権威ある省庁は財務省、外務省、経済産業省であり、一方で最も権限が弱い省庁は防衛省、文部科学省、環境省であると示されました。特に環境省はつくられて日が浅いこともあり、日本の省庁の中では権限も資金も小さいとのことでした。日本における環境政策に関わるキーアクターは、国家レベルでは経済産業省、環境省、市場レベルでは経団連、電力会社、東芝、三菱などの大企業が挙げられました。日本にも市民社会レベルのアクターは存在しますが。その影響力は小さいことが指摘されました。東京都の都政システムについても学びました。小池百合子都知事が率いる都民ファーストの会では、環境を含めた「持続可能な社会」の実現を宣言していることが示されました。
今回のレクチャーのまとめとして、三つの点が指摘されました。一つ目は、環境保護は困難であること、二つ目はコモンズの悲劇を避ける為には、Hardinの理論ではCentralismとPrivatizationの二つの解決策しか存在しないが、Ostromの理論では良く組織された人々のまとまりが重要であることです。三つ目は、ステークホルダーについて理解することが重要であるという点でした。
本日のグループワークは、アトランタと東京におけるエネルギー問題についてのものでした。あるグループでは生徒の一人が日本におけるCogeneration System, コジェネレーションについてスライドを作ってきており、メンバーに紹介していました。コジェネレーションとは、排熱を利用して発電などに有効活用するシステムのことであり、エネルギーを循環させる新しいシステムのことです。日本では、田町、豊洲、新宿、幕張などで実際に活用されているとのことでした。排熱を利用して新たな発電を行う特徴からは、持続可能性へつながる可能性を感じますね。スライドはイラストも豊富で非常に分かりやすく、かつ興味深いものでした。他のメンバーもスライドの最後には拍手をしていました。
あるグループでは、アトランタと東京のそれぞれの環境を巡る特徴と問題、可能性のある解決策についてアイデアを挙げていました。アトランタと東京の違いとしては、アトランタには土地的な広さがあるが、東京にはないということが挙げられていました。両者で共通する特徴は多く、例えば経済的、社会的不平等、環境保護に対して公的なサポートが弱いこと、再生可能エネルギーが少ないことなどが指摘されていました。土地の特徴について注目し、それぞれに適応した解決策を考えていくという戦略ですね。地域の特徴を生かした有効な解決策が導かれることが望まれます。