開催報告:国際協力機構(JICA) 久保倉 健 氏のご講演

6月15日は、JICAからお越しの久保倉 健さんのご講演がありました。内容は大きく分けて、JICA事業の概要、SDGsの特徴、日本政府とJICAのSDGsへの取り組み、及びボリビアのケーススタディでした。JODAとJICA事業の概要と現状についての説明の後、SDGsの特徴についてお話しがありました。SDGsが目指すものとして”No one will be left behind”というスローガンがあります。この誰も取り残さないという高い目標は、それぞれのゴールとターゲットが相互に関連しあっていることをSDGsが強調することからも示されています。全てのゴールとターゲットが関連しあうという視点によって、複雑に関係しあう網の目によって誰も取り残さないことを目指していることが窺われます。SDGsの野心的なターゲットを達成するためには、さらなるイノベーションとパートナーシップの強化が重要視されているというお話しもありました。

さらに、日本はSDGs策定プロセスに積極的に関わった結果、日本政府やJICAが重視する、人間中心の開発を強調する人間の安全保障、防災、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、質の高いインフラといった点がSDGsへ反映されたといった説明もありました。JICAのSDGsへの取組方針では三つの方針が示されています。一つ目は、JICAが人間の安全保障と質の高い成長の実現に向けた協力を通じてSDGs達成に貢献することが目指されています。二つ目は、SDGsの17ゴールのうち、JICAの経験を生かせる10のゴールで国際協力の活動をリードすることが目指されています。三つめには、日本の知見も生かしてイノベーションを起こし、民間企業や地方自治体を含むあらゆる関係者とのパートナーシップを加速化していくことが挙げられています。以上の三つの方針を見ても、JICAがSDGsの達成へ向けて様々なアクターとのパートナーシップを重要視していることが分かります。様々なアクターとの協働事例として、インドでの公共交通機関の整備や、ヤマハ株式会社とのタンザニアにおける民間連携協力や、マレーシアにおける大学・研究機関との協力が挙げられました。

最後に、久保倉さんが勤務されていたボリビアでのJICAの協力事例も紹介されました。ボリビアの経済は、天然ガスを初めとした化石燃料の輸出に大きく依存しており、それ故に国際市場価格の変動が国内経済・社会に与える影響も非常に大きいことが示されました。ボリビアでは、化石燃料の輸出から得た歳入をもって、国内の社会サービスの充実化を図ってきたことで貧困の割合が過去十年で半減したものの、未だ国民の17%が絶対的貧困にあり、妊産婦死亡率や5歳未満児死亡率が他の中南米カリブ諸国と比べて非常に高いことが挙げられました。その他に、気候変動にも起因する氷河の減少や干ばつ等によって引き起こされた都市部での深刻な水不足についても報告されました。これらの課題を踏まえて、環境、社会、経済の相互の関係性を踏まえた政策立案・実施の重要性やその困難さに関する示唆がありました。ボリビアの地方では地理的に広大な土地に小さなコミュニティが点在している為、各コミュニティが社会資本サービスへアクセスすることが難しいそうです。その為にJICAでは各コミュニティへアウトリーチする健康教育プロモータの育成力点を置き、かつコミュニティを管轄する小規模な保健施設から地方の病院、都市部にある拠点病院までのネットワークの強化を図る協力を展開してきました。特に住民の健康を促進する試みでは、健康教育プロモータとコミュニティ代表者が一緒に現地でワークショップを開き、各コミュニティの住民の間で健康を取り巻く様々な問題の中で特に何が問題であるのかといった現状の把握が図られ、その解決のための自主的な活動計画の作成とその実践が促されたそうです。原さんのご講演でも現地の人と直接話す機会をつくり、人間中心に考えることの重要性が示されましたが、久保倉さんのご講演においてもJICAの人間を重視する姿勢が窺われました。

 

研究員の個人的な感想:「人間」とは誰か?

 二日連続でJICA職員の方のお話しを伺うことができましたが、どちらにも共通してパートナーシップと“Human centered”な姿勢がJICAと日本政府から重要視されていることがよく分かる内容でした。この”Human”という単語にはもちろん「全ての人間」という意味が込められているのですが、歴史的にも誰が救うに値する人間であり、誰がそうではないかという”Human”の線引きがなされてきました。現在においてももちろん特定のグループを「救うに値しない人間」として位置付けることが続いています。(例えば、日本国内においては結婚に付随する社会的保護が受けられないセクシュアルマイノリティーや、移民、在日韓国人、在日中国人などが挙げられます。)性質は異なりますが、緊急の場合について考えてみれば、救急車で搬送する人々の順序を決めるのはやはり生命の順序付けであるとも考えられます。開発協力について考えてみると、掲げられる問題と解決策には明らかにプライオリティーが付けられており、例えばSDGsのゴールの順序であったり、そのゴールの設定の仕方そのものであったりが国際社会において「何が、誰が、」問題であるのかという国際的な順序を示しています。そこから見えてくるのは、国際社会の視点から見て「誰が」救わなければならず、「誰が」救わなくてもよいのかというトリアージであるとも考えられます。全ての人をターゲットにしたSDGsで、本当は「誰が」ターゲットとなっているのかについては慎重に目を配る必要がありますね。