開催報告:国際協力機構(JICA) 原 昌平 氏のご講演

6月14日は、JICAからゲストレクチャーとしてご来校した原 昌平さんのご講演がありました。講演の内容は大きく分けて二つ、国際的な開発協力の潮流と原さんが実際に勤務されていたイラクにおけるJICAの活動についてでした。

日本の国際協力の歴史について概観した後、国際社会における開発協力の潮流についてお話しくださいました、基本的に、開発途上国への資金フローとしてODAは引き続き重要ではあるものの金額・規模の観点では既に他の資金フローに劣後していて、現在では民間資金その他の形態のフローが増加しているとのご報告でした。その他にも、DACメンバーではない新興ドナー国(例えば中国、サウジアラビア、トルコなど)が可視化してきているという現状が示されました。近年の新しい傾向として、米国や一部のヨーロッパ諸国で見られる自国中心主義、技術革新によるボーダーレス化、途上国・新興国の国によるインフラ整備への莫大な需要などが挙げられ、国際開発協力の在り方も情勢の変化に合わせて変わってゆく必要性が指摘されました。国際開発協力の在り方として、従来はドナー国の視点が強く打ち出されたのに対し、近年では発展途上国の声がより聞かれるようになり、その結果経済成長・繁栄の重視やインフラの需要が強調されるようになった現状が示されました。途上国・新興国におけるインフラ整備は長期でリスクが大きいこともあり莫大な資金の調達が難しい一方、世界的には民間資金・年金資金等が有望な投資先を探している状況であり、ODAをはじめとする公的資金が適切なリスク軽減機能を発揮し、途上国・新興国向けに民間資金を動員することが期待されているとのこと。
2015年は、世界の課題を解決するための国際的な協調関係の重要性がSDGsの設定や気候変動対策に関するパリ協定等によって再確認された年でした。2016年には逆行する動きも一部みられましたが、開発途上国の、そして世界全体の課題は国境を越え、迅速な対応を必要とするようになってきており、ますます国際的な協同と複数のアクターによる複合的なアプローチ、そして「パートナーシップ」(SDG17)が重要になっていくことが分かります。これらの潮流を踏まえて、JICAでは従来の公的セクター間の開発協力から、民間部門や他国との協同を推進していくことが課題として挙げられました。

講演後半では、原さんが勤務されていたイラクにおけるJICAの活動をご報告いただきました。あまり日本国内では知られていませんが、JICAはイラクで20を超えるインフラプロジェクトを支援してきた実績があります。国内の情勢が不安定であることからプロジェクトには様々な問題が発生するようですが、それらの問題を解決する為にJICAは現地にいるのだという力強いお言葉でした。プロジェクトのモニタリングシステムとして、イラクの組織、JICAに加えてUNDPも参加したジョイントモニタリングシステムを確立し、充実したプロジェクト評価とプロジェクト実施を通じたキャパシティデベロップメントを実現していたというご報告でした。困難な治安情勢下であっても、安全を確保しつつイラク国内に拠点を置くことで、現地のイラク人との直接の交流=信頼関係の構築が可能であったということでした。資金を提供するだけではなく、現地の人々と直接プロジェクトの促進に向けて関わりあいながら信頼関係を築き、それを通じて相手国のキャパシティーデベロップメントを促進し、より充実した協力にすることが大切であると示されました。

講演の最後には、イラクのJICAオフィスや市街地などの写真を見せてくださいました。不安定な情勢下のイラクでJICA職員として生活するとはどういうことなのか、少し実際の状況が垣間見えた時間でした。イラクでは長年続いた戦争の影響で男性が多く死傷し、その結果政府を女性が維持していたことから政府での女性の活躍が目立つということです。確かに、原さんがお持ちになった財務省の写真にも多くの女性が写っていました。

 

研究員の個人的な感想:目標としての「女性」のゲットー化と女性嫌悪?

SDGsには目標5に「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」が挙げられています。この目標を見ると、まず一つの疑問が沸いてきます。なぜ、「ジェンダーの平等」を達成することと「すべての女性と女児のエンパワーメント」が並列されているのか。ジェンダーに基づく格差を是正することが、「すべての女性と女児のエンパワーメント」へと還元されているのはなぜでしょうか。エンパワーメントのターゲットとしての「女性と女児」を設定することが、「ジェンダーの平等」を設定することと同義になることには、少なくとも二つの問題点があります。一つは、そもそもジェンダー平等を実現する為には「女性」をどうにかしなくてはならないという視点が設定されること。つまり頑張るのは女性という視点が強化されるということです。もう一つの問題は、ジェンダーに関わる問題が「女性に関わる」問題へと縮小され、全ての人々が巻き込まれていることが無視されてしまう点です。いづれにしても、「女性」がジェンダー平等達成の為の現在の「問題」であり「障壁」であり、加えてそれを克服するための「責任者」として設定されてしまう懸念があります。この絡み合った「女性」に対する認識の仕方が、ひいては女性への嫌悪感を生み出すことは十分にあり得ます。ターゲットの設定の仕方とそれに伴う言葉の使い方、背後に潜む危険性について気を配る必要があります。