調査結果の理解と分析、プロジェクトの立案について:Graig先生

2017/07/13 Thursday

本日の全体の流れ:

本日の最初はJenny先生によるレクチャーがあり、その後School of Industrial Design からお越しのCraig先生によるレクチャーがありました。タイトルはContextualizing Understandings for Analysis でした。レクチャーの内容は、現地の調査で得たものをどのように理解し、どんなフレームワークを使用して分析し、どのように具体的なプロジェクトへとつなげていくのかということについてでした。

 

本日の講義:

本日の最初には、Jenny先生による短いレクチャーがありました。各グループが前回のJenny先生の授業から加えて行った調査について各々報告しました。みどりヶ丘エリアを担当しているグループは、集めた情報をカテゴリー化してマップなどに反映させていく段階に入っているようです。現地調査に加えて、コミュニティについての統計やデータが欲しいとのことでした。この地区は家賃も比較的高いそうで、それがコミュニティに住む人々や他の地域との関係とどのように関わるのかについても調べるようです。大岡山エリア担当のグループは、マップに調査結果を追加している段階だそうです。このグループは商店のオーナーとのインタビューも行ったとのことでした。今後は高齢者へのインタビュー、ツイッター経由で集めた東京工業大学の生徒へのインタビューも行う予定だそうです。今まで調査していない地域にも行く予定で、とくに商店街などではお昼時にどれくらい人々が利用しているかを調査するようです。北洗足エリアを担当しているグループは、特に住宅地と商業地の二つに注目して調査をしているとのことでした。今後は休日と平日の人々の行動の差にも注目する予定だそうです。このグループでは、高齢者、20代から30代の家族世帯、小さな子供の三者に主に注目してきたそうです。大きな犬の散歩をしている人をよく見かけるそうで、そのオーナーは収入が高いのではないかという予想をしていました。洗足池エリア担当のグループでは、東京工業大学の生徒へのアンケートを実施したそうです。加えて、公園でのインタビューや知人へのインタビューも予定しているとのことでした。東京工業大学の教授にこの地域の委員会のメンバーがいるそうで、その教授へのインタビューも予定しているそうです。どのグループも調査結果がある程度たまってきており、それの分析にかかりたい時期であることが分かりました。

続いて、Craig先生によるレクチャーがありました。Craig先生はSchool of Industrial Designからお越しで、主にイノベーションとデザインについて研究なさっているそうです。デザインなので、視覚的な効果とイノベーションとの関係性にご関心があるようです。まず、同じものであってもデザインや人によって異なるように見えることがいくつかの絵や図によって示され、何かを「見る」ことと「理解」することには必然的にバイアスや偏りが存在することが指摘されました。Craig先生は、私たちが何を知っていると思うのか、ということについて仮説に飛びつくことなくじっくり考える必要があるといいます。その点を示すために完全には三角形になっていないが、三角形ともいえるような図形を示され、この図形にはいくつの三角形があるかと質問されました。生徒たちは二つ、八つなど回答していましたが、Craig先生の回答は、どこにも三角形は無いというものでした。つまり、この図形には完成された三角形は実際に描かれておらず、そのかけた部分を自分で補って「理解」しているだけであるということです。私たちが何を知っていると思っていて、それは実際には「仮説」ではないのかと疑うこと、知っていると思っていることについて時間をかけて考えることが重要であるとのことでした。

続いて、グループに分かれて、Mind Mappingをし、それから得られたことについて発表しました。Mind Mappingとは、あるアイデアや情報を核にしてそこから知っている情報や浮かぶアイデアを繋げていくというアクティビティです。Craig先生は、このアクティビティを通して、知っていることの繋がりだけではなく、「知らないこと」について気づき、知っていることと知らないことのギャップを見つけてほしいとのことでした。各グループでホワイトボードを一つ使い、マッピングをしていきました。各々のグループで絵を交えたり、文字だけであったりとグループごとの特徴が出ていました。Mind Mappingの結果について各グループごとに発表しました。南洗足エリアのグループでは現在分からないこととして、住宅地においてコミュニティの繋がりはあるのか、東京工業大学がどのようにこの地区と関わっているのか、Green spaceが公の場にはあまりないが、一方で庭でのガーデニングは盛んであることからこれらの関わりはあるのか、などの質問を挙げました。気づいたこととして、注目している人々が子供と高齢者に偏っていることが示され、今後は働いている人々、普段の調査では見かけない人々に注目していきたいということでした。Craig先生は、Mind Mappingは発見する過程であり、「知らないこと」をどのようにして知るのか、というのが重要な点であると指摘されました。

大岡山を担当するグループでは、キャンパスと住宅地という立地を中心に据えていました。分からないこととして、キャンパスと住宅地の関係性、若い人と高齢者の関係性などが挙げられました。東京工業大学の生徒が小規模な書店は利用しないが、かき氷屋はお昼などに利用していることが挙げられ、これがコミュニティと大学との結びつき方について何を示すのかについてより考えていくとのことでした。この地域の住民の収入と家賃が比較的高額であることを受けて、Jenny先生はそれがなぜ問題であるのかという質問を投げかけました。ある生徒は、職業や収入によって人々を隔離していることを問題として回答していました。Jenny先生は、持続可能性から考えれば全ての人々の生活の質が守られるべきであって、地球規模での相互関係を視野にいれることでフィールドにおける「問題」を「問題」として指摘することができると指摘されました。

みどりヶ丘を担当するグループでは、分からないことは比較的家賃も物の価格も高いこの地域に東京工業大学の学生が実際に行くことはあるのかということ、知識のギャップとしては、これまでの調査ではコミュニティの情報のほうが大学の情報よりも多いこと、加えてそれらの情報間の関係性が分からないことが挙げられました。この地域の学校と東京工業大学はお米作りなどで交流があるそうです。このグループは絵を多く描いていました。それを受けて、Craig先生は視覚的なツールの良さはどの人にも何らかの情報を伝えられること、そして新しい思考や対話を生み出す刺激になることにあると指摘されました。

北千束エリアのグループは、人々と場所に注目してきたということでした。人々に関して明らかになったことは、調査で接点があるのは20代から30代の子持ちの家族、小学生くらいの子供、退職した高齢者に限定されていることだといいます。ペットを飼っている人、車を持っている人を多く見かけることから、この地域の収入が比較的高いことが窺えるということでした。分からないことは、基本的にいつ訪れても静かで閑散としている理由、比較的裕福な地区なのになぜ中古のお店が数店あるのか、という点であるそうです。生徒からの質問として、この地区と東京工業大学の関係はどうなのか、ペットの飼い主がその地区の住民であるとは言えないのではないかというものが挙げられました。

発表の後、調査結果をどのようなフレームワークを使用して分析していくのかについてグループで考えました。あるグループではSDGsのゴールのいくつかとSTAR、社会・環境・経済のベン図を包括的に使用するアイデアを挙げていました。あるグループでは、社会、自然、技術のベン図を使用し、特に技術に注目したフレームワークを使用したいとのことでした。Jenny先生は、フィールドでの調査と理論やフレームワークというレベルの異なる二つの要素をどのようにつないでいくのかが課題であると指摘されました。レベルの異なるメソッドを複合的に使うことで、現実と乖離しがちな理論と、人々が自分でも理解していない現実の在り方についてより深く正確に分析し考察することができるようになるということでした。

その後、グループごとにOpportunity Statementsを考えました。あるグループでは社会、自然、技術それぞれについてステートメントを考えており、社会的な側面としては学生によるホームステイや、地域の人を招く英語のクラスなど大学と地域を結ぶ提案がなされました。自然については、住宅地にGreen spaceを作ることを大学が協力することなどが提案されました。別のグループでは、コミュニティと環境のより良い関係を橋渡しするために、大学で環境に関するワークショップを行うことなどが提案されました。Craig先生は、ワークショップの対象者は誰なのか、もっと具体的に絞るのも効果的であると指摘されました。Craig先生は、どのように今までの雑多な現地調査をまとめ、現実的なプランの次元へともっていくのかについて考えてほしいとおっしゃっていました。

本日でJenny先生の授業への参加は最後になります。Jenny先生は、生徒たちにこのプログラムを通じて様々なことを学んで欲しいし、今後も連絡を取り合いましょうとおっしゃいました。Jenny先生による文化人類学の調査方法は今までの講義とはまた違った特徴があり、生徒たちも得るものが多かったことと思います。