コミュニティベースの持続可能な開発とは

2017/07/04 Tuesday

本日の全体の流れ:

前半はJenny先生による講義でした。これからのプロジェクトにおける基本的な姿勢とフレームワークについてお話しされました。続いて阿部先生が東京工業大学の持続可能性との関係の在り方についてレクチャーされました。

 

前半の講義:

最初はJenny先生についてのご紹介がありました。先生は早稲田大学に4年間滞在し、その後新潟県、東京都に移り住むなど、日本には数年滞在されたご経験があるそうです。人類学で博士号を取得し、その後は日本をフィールドにして、コミュニティがいかに持続可能性を実現するのかというテーマについて取り組まれているようです。特にご専門はSocial Justiceについてということでした。7月からのプロジェクトは、Jenny先生のご専門である人類学を背景として、コミュニティベースの取り組みに集中するようです。Community Driven PerspectiveとCommunity Perspectiveの違いについて質問され、生徒の一人は、前者は草の根的な視点、後者は外部からの視点が中心になると回答していました。Drivenがつくことによって、コミュニティ自身が内部から見て、どのような問題を「問題」だと思っているのか、何が必要だと思っているのかという点を重視することが示されています。コミュニティは受け身なクライアントではなく、一緒に行動をする相手であるということが示されました。今回の授業では、コミュニティにおける問題解決の新たなアプローチを学ぶということが目標のひとつになっています。何が「問題」であるのか、つまり何が「知識」として誰に知られているのかという点を学ぶためにも、生徒たちは隣に座っている生徒を紹介するというアクティビティを行いました。名前、専攻、好きなこと、得意なことなどお互いについて知っていることを紹介しました。生徒たちはお互いについて面白いことも知っており、仲の良さが感じられるアクティビティでした。Jenny先生は、このようにコミュニティについて知ることが、ある行動に人々を巻き込む為には必要だと考えています。それぞれの人が何に興味を抱き、どのような視点から何に関心を持つのか、という点が協力には必要だということでした。

今回のシラバスには、東京工業大学周辺の四つの地域が区分けされており、各グループが地域を一つ担当します。このプロジェクトで重要なのは、「問題」ではなくAssetsから行動を開始するという点です。キャンパスと周辺地域との関係は深く、アメリカでは大学とその周辺地域の関係性の問題を”Town –Gown problem”というそうです。大学の姿勢として、非営利であったとしても、そこには雇用が生まれ商業的利益も見込めることから、大学と周囲の関係には根深いものがあるようです。今回の授業でさらに特徴的なのは、各々の課題への取り組みを社会に還元し興味を持ってもらうという点に注目することです。単に学術的な取り組みにとどまらずに、社会とのコミュニケーションに繋げていくことが重視されています。

持続可能性については、包括的に考えるという姿勢が示されました。社会、環境、経済の相互関係もさることながら、社会、自然、技術の関係も指摘され、技術がどのようにあるコミュニティの持続可能性に貢献できるのか、という問題が指摘されました。持続可能性を考える際に参考になる図として、様々な要素で構成された円環状のゾーン、”the safe and just space for humanity”と書かれたゾーンが示されました。このように社会上の様々な領域を横断して、人間にとって安全な持続可能性が考えられるということです。最後に再度、技術がどのようにコミュニティが求めるものを実現するために役立てられるのか、という問いが投げかけられました。

続いて、阿部先生による東京工業大学と持続可能性についてのレクチャーがありました。先生の所属する環境・社会理工学院はTransdisciplinaryという語を使用する「融合理工学系」という課程を設定しています。Transdisciplinaryという語が示すものは、各分野の専門家やエンジニアなど各問題ごとにその「問題」解決に必要な人が集結し、協力するという姿勢です。社会における問題が近年はより複合的なものになっていることも一因として、現在では分野を超えたパートナーシップが重要になってくるということでした。現在東京工業大学では、省エネルギーの実現などに着目したユニットは存在するものの、より広い観点から大学という組織の持続可能性について専門的に評価をしたり取り組んだりする明示的ユニットは無く、これからの課題であるといえます。大学の持続可能性について、融合理工学系が貢献できる可能性は大きいということでした。レクチャーの最後には東京工業大学の生徒たちによる持続可能な開発についての取り組みも紹介されました。

今回の授業を通して再確認されたのは、持続可能な開発に取り組む際のパートナーシップの重要性と、「問題」と「目標」の複合的な性格でした。

 

研究員の個人的な感想:

Jenny先生のCommunity Driven Perspectiveという概念には非常に共感しました。「知識」について考える場合、誰が、何を知っていると宣言するのか、という点は非常に政治的で重要であるといえます。例えば、E.K.Sedgwickが指摘するように、「同性愛」についての知識は常にマジョリティである社会の側が有するものであり、その知識は法的にも社会的にも破壊的に「柔軟」です。この知識の柔軟性は、社会によって「同性愛者」と定義される人々にとって非常に攻撃的であり続けています。コミュニティでの持続可能な開発においても、そこに住む人々が必要だと思っているものと、外部の専門家から見て住人に必要なもの、という二つの「知識」が必ずしも合致するとは言えません。加えて、そこには「重要度」の格差が生じます。このような「知識」の在り方とその問題点について生徒たちにはしっかりと考えてほしいと感じました。