コミュニティとサステナビリティ

本日はRuth先生による、コミュニティとサステナビリティの繋がりに関する講義が行われました
講義の前半では、ジョージア工科大学(GT) のJennifer Hirsch先生による “What’s Culture Got To Do With It?”というタイトルのビデオ講義を見て、その中で用いられているアセット(資産)、方法論について考えていきまた。

(参考1 Hirsch先生によるビデオへのリンク:Hirsch, Jenny.,”What’s culture Got To Do with it?”. Garrison Institute. Retrieved from https://www.garrisoninstitute.org/video/whats-culture-got-to-do-with-it-engaging-chicagos-diverse-communities-in-climate-action/)

Hirsch先生は、Ruth先生と同じくGTのSLS (Serve-Learn-Sustian) の先生で、昨年度のJSPSDでは、講義を行ってくださいました。

(参考2 Hirsch先生について:https://serve-learn-sustain.gatech.edu/jennifer-hirsch)
(参考3 昨年度のJSPSDの記録よりHirsch先生の講義の様子:http://www.tse.ens.titech.ac.jp/~jspsd/community-baseddevelopment/)

このビデオの中で、Hirsch先生は人類学者として、彼女と彼女の研究グループが開発したコミュニティをターゲットとした実践的な活動のプロセスについて紹介しています。Hirsch先生はこの講義の中で、気候変動対策、そして都市・地域開発の中でのコミュニティの存在に焦点を置き、このプロセスが用いられた例として、「Chicago Community Climate Action Toolkit」についての説明をしています。このプロセスは以下の5つのステップを含みます。

  1. Research:事前調査を行う
    このステップの中で、以前Ruth先生の講義であったアセットベースとニーズベースの両方のアプローチが使われています。考え方としては変わりませんが、Hirsch先生はニーズではなくConcerns(問題点)という単語で、改善されるべき点・不足している点について挙げています。
  2. Assemble:多様で多彩なパートナーシップを募る
    Hirsch先生の紹介していたケーススタディでは、ラテン系のコミュニティが用いられています。実際のパートナーには、多様性を活動の焦点としているデイケア活動を行うコミュニティパートナーであったり、ランドスケープや土壌浄化といった技術的支援をするパートナー、そして実際に活動を行っていく上で人々に教育を行ったり、サステナビリティを考慮しながらステップ5にもあるスケールアップを手助けするパートナー、というように、本当に様々なパートナーが集結しています。これらのほとんどが、このプロジェクトが行われるまで、共に活動したことが無かったそうです。
  3. Translate :地域の計画をコミュニティの戦略へ変換する
    紹介されたケーススタディの中では、Chicago Climate Action Strategiesの5つのストラテジーからコミュニティのアセットと問題点に当てはまる3つのストラテジーが選択されています。Hirsch先生と彼女のグループはパートナー達とも協力しながら、これら3つの大目標に貢献するコミュニティサイズのストラテジーを作成していったそうです。
  4. Implement:計画を実行する
    このラテン系コミュニティのケーススタディでは、汚染され放置されていた場所が清掃され、 “Mary Zepeda Native Garden” と呼ばれる庭園が作られました。これにより、この場所は産業の歴史を学ぶ教育の場、健康向上の期待できる憩いの場となりました。
  5. Scale:コミュニティという枠を超えた影響力があることを確かめる
    気候変動について、コミュニティ内でそれに対する意識が高くても、実際に何をしてよいのか分からないという事が多いようです。この講義で紹介された内容がToolkitという形で紹介されているのには、この活動を通して学んだことが他の地域や今後の発展に利用できる道具となっているからです。現に、この講義で紹介された内容を含め、どういったアプローチを取ることで成功へと繋がったのかなどの情報全てを、ウェブ上で共有しているそうです。そのため、他のコミュニティでも、このToolkitを使うことで、気候変動問題解決へ貢献していける仕組みになっています。これは、SDGsにも応用でき、SDGsという国連目標をコミュニティという身近な、マイクロスケールに落とし、そこでの活動をSDGs達成へと繋げていくことが出来ます。

このビデオを通して、世界、国などの大きな目標達成に向けてどう取り組むのか、コミュニティという身近な存在から活動を起こしていく事の大切さを学びました。これまでのJSPSDでは、SDGsやグルーバルスケールの問題を中心に見てきましたが、それらに向けた実践的な取組に関して多くは触れてきませんでした。そういった意味でも、実践的な面に焦点がおかれたこのプロセスは、学生達にグローバルスケールの問題を違う側面から考える良い機会になったのではないかと思います。

クラス全体で、このHirsch先生の講義を振り返った際、学生達からは「アセットベースの開発においてのアプローチについて理解が深まった」、「今まで協力したことのない団体が手を取り合って活動するという事が印象的だった」といったコメントがありました。

その後、コミュニティでの活動と関連して、UNU-IASやGreater Atlanta RCEの紹介がありました。

UNU-IASとは、国連大学サステナビリティ高等研究所(United Nations University-Institute for the Advanced Study of Sustainability)を指します。これは、国連の機関の一つとして東京を拠点とする研究・教育機関です。UNU-IASの大学院プログラムでは、サステナビリティ学を専攻とする修士プログラムと博士プログラムがあります。学生のほとんどが、今回の紹介でUNUを初めて知ったようでした。JSPSDでサステナビリティを学ぶ学生達には、興味深い教育プログラムの紹介となったようです。(参考 UNU-IAS:  https://ias.unu.edu/jp/ )

Greater Atlanta RCE(Regional Centre of Expertise on Education for Sustainable Developmet)とは、昨年度(2017年)の12月18日にUNUによって認められたばかりの地域サステナビリティ ネットワークです。アメリカにはこれまでに5つのRCEが存在しましたが、このGreater Atlanta RCEが加わったことで、6つになりました。現在GTは、同じくアトランタにあるエモリ―大学とスペルマン大学と共に、Greater Atlanta RCEの活動を行っています。(参考 RCEについて:https://serve-learn-sustain.gatech.edu/rce-greater-atlanta

これと関連して、Ruth先生には日本にもサステナビリティに関連した活発なユースネットワークがあることを話していました。これについて、Ruth先生はあまり言及していませんでしたが、私が知っている団体でJYPS(Japan Youth Platform for Sustainability)という団体があります。彼らは毎年行われるHLPF(High-level Political Forum)のユース枠で政策提言を行うなど、やる気のある学生や社会人で構成されたネットワークです。興味のある方は、彼らの活動を見てみるなり、総会などに参加するのも良いかと思います。ちなみに、今年度のHLPF(HLPF2018)は現在行われています。(HLPF2018の日程 2018/7/9-18)(参考 JYPS https://japanyouthplatform.wixsite.com/jyps) その他、日本にも7つのRCEが存在します。こちらも、興味のある方は、チェックしてみるのも良いかもしれません。(参考 Global RCE Network http://www.rcenetwork.org/portal/rces-worldwide)

 

本日の最後は、フィッシュボウル アクティビティを行いました。これは、 “相手の意見をしっかりと聞く” 事に重点が置かれた話し合い方法を用いて行われたアクティビティです。

流れとしては、まず個人個人でキャプストーンのグループのトピックと関連する大切なステークホルダーを3つ考えます。その3つそれぞれに、なぜそれらが重要なのかの理由も考え、ステートメントを作成します。その後、各グループで集まり、ステートメントをグループメンバーに発表していきます。この際、発表していないグループは、発表中のグループを囲み、発言することが許されません。また、グループメンバーも、発表者が発表終了後にのみ、1人1回のみ発言ができます。発表した者の、他のメンバーからのコメントに対しての受け答えは、メンバー全員が発言した後のみに許されます。この流れを外から見ている他グループのメンバーは、発表グループの各メンバーが発言を終えた後、「有意義な話し合いが行われていたか」について評価します。1人1回のみ話すことが許され、他人の発表を中断することが出来ないこのアクティビティでは、発表中のグループメンバーはもちろん、それを外から見ている人達にも “聞く”事を強制させます。

この日も、Ruth先生は ”Sloudly” (ゆっくりと大きな声で) という掛け声で、発表者の緊張をほぐしている様子がみられました。どのグループもお互いの話をよく聞き、有意義なディスカッションが行われていました。Ruth先生はこれを称賛し、この経験を今後のグループプロジェクトでも役立てていってほしいと話していました。

Ruth先生のJSPSD2018での講義は、これが最後となりました。3週間ほどの滞在と、短い間ではありましたが、「JSPSDの多様な学生達との授業をとても楽しめた」とおっしゃっていました。日本に来る事はこれが初めてだったという事で、週末も旅行に出かけたりと、かなり多忙なスケジュールをこなしていたようでしたが、とても有意義な時間を過ごせたと満足していらっしゃいました。Ruth先生、ありがとうございました。

 

記録:庄司 (Kanaha Shoji)
2018年5月ジョージア工科大学、環境工学部を卒業。JSPSD2018を研究員として補佐。