住民の視点に立つとはどういうことか

2017/07/06 Thursday

 

 


本日の全体の流れ:

本日の授業の前半は、Jenny先生によるレクチャーでした。主に参与観察などの人類学の調査方法について考えました。その後、グループに分かれてゲームをしました。

 

本日の講義:

本日はJenny先生によるレクチャーがありました。生徒たち全員で輪になって座り、その真ん中でJenny先生が生徒たちに質問を交えてレクチャーをなさいました。まずは、生徒たちが自身で担当の地区について何をしてみたか、という質問が投げられました。ある生徒は町を歩いていると、コミュニティの掲示板があることに気づいたといいます。日本語が読めれば内容も分かったのに、ということでした。住民との会話を試みた生徒もいました。Jenny先生はそれも非常に重要な調査であり、人類学でいう参与観察の重要な要素であると指摘されました。他の生徒はGoogle Mapで地域を包括的に見て、どこに何があるのか、ということを調べたようです。

続いて、戸越銀座をフィールドとしたPhoto Journalを取り上げ、写真などの視覚的なメディアも重要な資料であることが示されました。写真を使うことの利点について、ある生徒は朝と夕方の町の違いなど、時間帯によって異なる点が発見できることを挙げていました。確かに、特に東京では勤務地と住宅地がはっきり分かれていることもあり、時間帯によって人口が大きく変わる地域もあります。Jenny先生は、時間帯の差に加えて、後で見返すことで気づかなかったことに気付ける点も写真の強みだとおっしゃっていました。プレゼンテーションをCreativeにすること、が今回のプロジェクトの目標の一つですが、それを実現する為にも様々なメディアを駆使することが勧められました。生徒からは使用できるメディアの例として、写真、グラフ、地図、映像、音、絵などが挙げられました。特に、絵はインフォーマントに描いてもらうことで得られるものが多いようです。Jenny先生は、同じコミュニティでも人によって視点は異なり、印象も異なるということを強調されました。そこで、人々にコミュニティの絵を描いてもらうことで新しい発見が得られる可能性があるということでした。

エスノグラフィーの例として、”Coming of Age in New Jersey”(Michael Moffatt, 1989) が挙げられ、その調査手法として学生にどこに一番行くのか、どこが好きな場所なのか、を地図に描いてもらうというものがあったと紹介されました。地図に描いてもらった後それをどうするのか、というJenny先生の質問に対して、そこに実際に行ってみる、何度行っているか数値化する、模型を作ってみるなどの回答が生徒たちから寄せられました。そこでJenny先生が指摘したのは、それらはすべて調査者自身がやることである、という点でした。つまり、その人々に「なぜ」そこへ行くのか、ということを実際に聞いてみることが重要であるということです。インフォーマントの意見を聞く、というのは人類学の質的調査法では非常に重要な調査になります。インフォーマントの視点やものの見方、考え方をできるだけくみ取ることが調査者には求められています。そこで生徒から、もしインフォーマントが好きではない場所を好きだと言っていたりする場合、それは分かるのか、どのように判断するのかという質問がありました。Jenny先生は、いろんなメソッドを複合的に使用することで実際にその場に行っているのか、ということは判断できるとお答えになりました。加えて、現地調査ではインフォーマントの信頼を得ることが絶対的に必要であり、それは調査ができるかどうか、という基本的なことに大きく関わっていることが示されました。現地での情報を集めて、その後どうするのかというJenny先生の質問に対して、他の場所と比較をしてみるとある生徒は回答していました。比較については、シカゴで高温により多くの人々が亡くなった事例が挙げられ、低収入層のアフリカンアメリカンの人々が居住している二つの地域で、一方では多くが亡くなり、一方では誰も亡くならなかったことが紹介されました。それらの比較的状況が似た二つの地域の違いは、コミュニティのネットワークの有無であったそうです。住民間のネットワークが確立されていた地域では、エアコンのある家にエアコンを持たない住民が訪問するなど、お互いに支えあうことができたとのことでした。このように、一見同じように見える地域間でも住民の関係性など様々な点で違いがあるとのことでした。生徒が日本で驚いたこととして、朝家の周りを掃除している人々がいることが挙げられました。コミュニティの繋がりが、ある程度掃除によって支えられていることが分かります。また、アメリカとの違いとして、日本の学校では生徒が掃除をするが、アメリカではしないことが取り上げられ、この違いが何を意味しているのか、ということについて考えました。ある生徒は、学校への責任の在り方の違いを挙げていました。場所と人との繋がりの在り方にも文化によって違いがあることを学びました。

レクチャーのあとは、二つのグループに分かれてゲームをしました。一つのグループでは、東京工業大学周辺の大きな地図上に、自転車、バス、人間、犬、乳母車、車などのモデルを設置し、月曜日の午後6時に自分がどこにいて、何が周囲にあったかを再現しました。そのうえで、各々ステークホルダーが書かれたカードを引き、もしも自分がそのステークホルダーであれば何をするのか、それは自分の行動とはどのように違うのか、について各々発表しました。ステークホルダーには、サイクリングをする人、バスの運転手、子供がいる人、観光客など様々な立場の人々がありました。生徒たちは最初は少し戸惑っていましたが、もしも自分がその人だったら、という視点の切り替えに挑戦していました。