本日のWoodall教授の講義では、日本におけるエネルギー安全保障、及び政策についてを、時代背景と共に時系列に追っていきました。Woodall教授は、この分野の専門家であり、普段以上に楽しんで講義を行っているように見受けました。
講義の始まりにまず、Woodall教授は「化石燃料をほとんど輸入し、高い技術を誇る日本で、なぜ再生可能エネルギーに焦点が置かれていないのか」、そして「福島原発事故後も、なぜエネルギー構成の割合が変わらないのか」という2つのパズル(puzzle)を学生達に問いかけました。Woodall教授は学生達に、このパズルを頭に入れながら、講義を受け、今後行っていくエネルギーに関するグループプロジェクトに取り組んでいってほしいと伝えていました。
Woodall教授は昨年度のJSPSDでも、この2つのパズルに基づいたエネルギ―政策に関する講義を行っています。(参考 昨年度のWoodall教授の講義の記録:http://www.tse.ens.titech.ac.jp/~jspsd/energysecurityanddevelopment/)
エネルギー政策を見ていく上で、経済政策や環境政策と日本の歴史の関連性についても学びました。例えば、高度経済成長期に日本では公害の被害が広がりました。本日の講義では、以前、Woodall教授の授業でもあった日本の四大公害病について復習し、公害国会と呼ばれる公害問題に関する法令の整備が行われた1970年の臨時国会についてなどを学びました。公害がきっかけに日本では環境への意識が高まり、その後の日本の環境面における政策として、1972年に自然環境保全法が公布された事をはじめ、国際的には、1997年の京都議定書が採択された事についてなどが挙げられました。Woodall教授は先週発表された新しいエネルギー基本計画(参考 第5次エネルギー基本計画: http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703001/20180703001.html)についてもふれ、2030年度の電源構成に占める原発の比率を20~22%にするという政府の原発維持の姿勢を、学生達に伝えていました。
日本に限った事ではありませんが、公害に関しても福島原発事故についても、被害が出た後、政策に変化が生まれるという流れが印象的でした。しかし、被害が出ると分かっていながら(予想はできていながら)、実際に被害が出るまで、変化が起こらない・起こりにくいということも事実です。現に、気候変動や温暖化が唱えられている現在、日本ではあまりこれらへの対策が政策面に反映されていないように感じます。すべてを予測することはできませんが、今ある技術を生かし、政策においても「被害に出てからの対処」ではなく、「被害が出る前に対処」していければいいなと思います。
講義の最後に、授業前に提示された2つの日本のパズルについて、一同で考えました。
「化石燃料をほとんど輸入し、高い技術を誇る日本で、なぜ再生可能エネルギーに焦点が置かれていないのか」、そして「福島原発事故後も、なぜエネルギーの割合が変わらないのか」
学生達からは政府と大手電力会社との結びつきが強く、環境団体や個人の意見が通りにくくなっている点が指摘されました。Woodall教授は、それに加え、その象徴として日本には環境保護などを全面に打ち出した政党(Green Party)が存在しないことを挙げていました。
講義の後は、東京とアトランタのエネルギー問題についてのプロジェクトの時間となりました。このプロジェクトを進めていくにあたって “東京”と “アトランタ”の定義を明確にするべきだという事で、本日のグループワークでは、各グループが、それぞれの地域が示すエリアについて調べていました。東京とアトランタでは、人口、面積、政府機関などが違います。この違いから、昨年度のJSPSDでは、各グループそれぞれ違うエリアを東京、アトランタとし、比較を行っていたそうです。例えば、“東京”は首都圏、東京圏、東京都、東京23区、“アトランタ”はアトランタ市、アトランタ都市圏、などいった違いがグループごとにあったそうです。最適なアプローチを取り、情報を集めていく上で、この二つの地域をどう定義するかは大切な点です。本日のグループワークでは、これらについてグループで話し合った後、クラス全体で意見を交換していました。
その際、グループによって意見が分かれ、本日中にはこれらの地域の境界に関する定義は一意に決まりませんでした。どれほど情報を集められるかもう少し見てから判断したいという学生達からの意見も多く、この東京とアトランタの境界の定義は、次回のグループワークの時間に決めていこう、というところで本日は終了しました。
記録:庄司 (Kanaha Shoji)
2018年5月ジョージア工科大学、環境工学部を卒業。JSPSD2018を研究員として補佐。