持続可能な開発の考察と分析

2017年6月19日(月曜日)

本日の流れ:

本日の前半はProf. Amekudzki-Kennedy によるレクチャーでした。タイトルは、

“Sustainable Development Footprint Thinking & Analysis- A Portfolio Capital Asset Management Framework”です。後半は東京を対象としたプロジェクトのグループワークでした。

写真 Prof. Amekudzki-Kennedy によるレクチャー

 

Kennedy先生の講義:

本日は、ジョージア工科大学から来日されたAjo Amekudzi-Kennedy先生の講義でした。本日のテーマは、“Sustainable Development Footprint Thinking & Analysis – A Portfolio Capital Asset Management Framework” 『持続可能な開発の考察と分析― 資本マネジメントのフレームワーク』でした。本日の講義の目的は、基本的な問題解決の為のツールとコンテンツを生徒たちに提供することです。

まずは用語の基本的な定義から再考しました。「ニーズ」「持続可能な開発」「グローバルな開発」という語の定義は何か、考えていきました。生徒からは「グローバルな開発」とは、全ての基本的な資本を全ての人に分配することが可能になるようなイニシアティブを取ることという定義が出ました。その定義に賛成したのち、Kennedy先生が提示した定義は、全ての人に基本的な資本へのアクセスがあることと、その資本の再生が可能な状況にあることでした。「持続可能な開発」とはそのコミュニティーにおいて自らの資本を使用して発展していき、その資本を再生させていくことが可能な循環するシステムを作ることであるとのお考えでした。「ニーズ」とは「選択をできること」であり、主観的なものである為、「誰が」ニーズを決めるのかには注意が必要であり、それぞれのコミュニティーの文脈に合ったニーズを知ることが、開発を考える上で重要であるということでした。個別な文脈に応じたニーズやリスクを知る上では、比較的普遍的な「コンセプト」と実際の「使用可能性」を区別して考える必要があり、実際のプロジェクトについては個別具体的に対応するべきであるとのことでした。

今回の講義の重要な概念の一つとして「資本」”Capital”があります。資本とは “ a stock of goods”のことであり、様々な種類のものがあります。例えば、自然資本、人的資本、経済資本などがあり、それらは人の手で再生が可能なものと、再生が難しいものに大別されます。例えば、森は人工的に再生が難しいですが、ビルは再生が比較的可能です。これらの資本間の違いを考慮してバランスをとることが重要であるようです。

複数の資本に整理することで、一国の発展について考える時、Strong / Weak な発展という分類ができます。例えば、この国では経済資本は発展しているが、一方で環境資本はうまく発展していないという状況を考えてみると、環境の再生の難しさと必要性を踏まえると持続の難しい弱い”weak”発展ということになります。どのような場合でも様々な資本間のバランスを取りながら、持続可能になるよう配慮する必要があるようです。様々な資本の中からそのコミュニティーに適したものを取り上げ、それらを指標として開発について評価をすることが出来るようになります。人的資本、経済資本、環境資本それぞれにUNDPや世界銀行が設定した様々な指標があり、それらの指標に基づいて国をLow-Medium-High-Very Highなどと分類することができます。人的、環境、経済それぞれの評価を合わせて一国をC = (人的資源、環境資本、経済資本)と表すことができ、例えばカナダはCHHH = (H, H, H) (H=High, M=Medium, L=Low)と評価でき、アメリカはCHLH = (H, L, H)と評価されています。(UNDPのデータからの数式化。) これらの指標によって、一国内の資本間のバランスや他国との資本のバランスを比較をすることが可能になり、具体的に何をするのかという計画が見えてきます。

三次式にすることで図式化も可能になり、どの状況にどの国が位置しているのか可視化することも可能になります。一国における持続可能な開発の ‘Footprint’ つまり過程とその痕跡は、Z 指標= 人的資本、X 指標= 環境資本、 Y指標 = 経済資本 とすると例えばA国の2010年の三次式は、SFA,, 2010 = (ZA,2010, XA,2010, YA,2010, d/dt[ZA ], d/dt[XA ], d/dt[YA ], d/dt [ZA/XA], d/dt [ZA/YA], d/dt [XA/YA])と求められます。ZA,2010, XA,2010, YA,2010 とは調査当時のデータを指し(この場合は2010年のデータ)、d/dt[ZA ], d/dt[XA ], d/dt[YA ]とは数年間の資本のpositive/negativeな変化を指し、d/dt [ZA/XA], d/dt [ZA/YA], d/dt [XA/YA]とは一つの資本を別の資本と比べたときの変化の率を指します。このようにその時の固定的なデータだけでなく、過程について考察することは、ある計画の影響をより広い時間軸で捉えるということになります。Kennedy先生は、開発について考察するとき、固定的な視点と同時にOpportunityについて考えることを重要だとおっしゃっています。Opportunityについて考えるとは、次の世代など未来に向けてその計画がいかに作用するのか、今現在のデータでは測れないものについて考察するということです。資本間のバランスと将来への影響を考えたとき、Slow Development という選択肢もあるようです。つまり、経済資本の発展が環境資本の破壊と関連しあっているときなど、どれか一つの資本の発展を急ぐのではなく、全体的に資本間のバランスをとりつつ緩やかに発展していくことで結果として持続的なバランスの取れた開発になるという考えです。長期的な視点と資本間のバランスについて考えることが重要であると学びました。

Kennedy先生が講義の最後にお話しされたスイスのゴッダルト・ベース・トンネルの例は非常に示唆的でした。このトンネルは約57キロメートルに及ぶ世界最長のトンネルであり、アルプス山脈の地下2300メートルを通り欧州の北部と南部を結ぶ巨大なトンネルです。内部には高速鉄道が敷設されており、莫大な量の輸送がこの鉄道によって行われています。Kennedy先生はこのトンネルの総工費が約120億ドル以上(約1兆3200億円)にも及ぶことから、スイス政府はこのトンネルによって得られる利益は重視していないと考えています。スイス政府が重視したものは、即時的な収益ではなく、その他の様々な再生可能な資本であるということです。このトンネルは、道路がアルプス山脈の表面にできることで予想される観光業への悪影響を防ぎ(経済資本兼環境資本)、自動車の渋滞を無くすことで大気汚染を防ぎ(環境資本)、景観を守ると同時にパブリックヘルスを守ります(人的資本)。スイス政府の方はこの選択を、”right thing to do” とだけ説明したそうですが、Kennedy先生はこの選択を革新的なものと捉えており、費用対利益という思考だけでは生まれない、長期の影響を考えた有効な開発であると理解されています。

以上のように、その土地の文脈、さまざまな資本を複合的に見る視点、自国内の資本間のバランス、他国との比較など、開発について考える上で重要なさまざまなコンセプトやツールについて幅広く学ぶことができた講義でした。

 

グループワーク:

本日の後半は、東京を対象にしたプロジェクトのグループワークでした。東京を対象としたプロジェクトの概要を2ページにまとめる作業が行われました。あるグループでは、プロジェクト全体としては、交通機関、エネルギー、Linguistic Accessibility、ごみの四つの問題に着目し、それぞれ現状把握、問題の提起、それに対する解決策の提示を行うようです。プロジェクト概要が早くまとまったため、皆でグループの名称を考えたり、四つの問題を表したシンボルマークを作成したりと和気あいあいと作業が進みました。途中で日本語と英語の話にもなり、英語にはキャッチ―で短いフレーズや言葉が多いのに対し、(例えばSustainability)日本語は比較的長くなかなかコンパクトに言いたいことを伝える言葉が少ない傾向があるという話になっていました。確かに、Sustainable Developmentは日本語では「持続可能な開発」となり略称も難しいですね。プロジェクトを進める上でその概要を端的にかつ効果的に表す言葉の選択の難しさを感じました。

あるグループでは、飛び入り参加のKennedy先生を迎えてどのようにデータを集めるのかという話になりました。Kennedy先生のご提案は、統計的なデータを用いると同時に政府の役人や組織の役員に対して、インタヴューを行うというものでした。役職に着いている人々は東京のニーズに対して豊富なデータと意見を持っていると予想されるため、そのインタビューで明らかになることも多いのではないかというのがその理由です。量的なデータと質的な調査結果を組み合わせることでより深いプロジェクトになるはずだとのご提案でした。生徒たちも政府の役人にインタヴューをするという発想はあまりなかったようで、Kennedy先生にインスパイアされたようでした。