本日の流れとしては、まず、前半は、以前Ruth先生の講義内容に基づく課題であったCritical ReflectionとProblem Discoveryについて、学生一人ひとりが発表をしました。後半は、アセットベースのコミュニティーについての講義が行われました(Critical ReflectionとProblem Discoveryについて:2018/7/4のブログより http://www.tse.ens.titech.ac.jp/~jspsd/2018_critical_reflection/)。
一人ひとりの発表を始める前に、Ruth先生は、ゆっくり(Slowly)、大きな声(Loudly)で話すよう強調していました。この二つの単語を合わせ、Ruth先生は “Sloudly” で発表するよう学生達に伝えていました。自分の文章をクラスに向かって発表するという事に、学生達は少しためらっているようでしたが、Ruth先生の 「 “Sloudly” で!」という掛け声に笑いも起き、発表者の緊張がほぐれている様でした。
Critical ReflectionとProblem Discovery
Critical Reflectionでは、ある学生は提出した課題の中の一文をそのまま発表し、ある学生はそれに加え、説明や感想を述べていました。以下は、福島のフィールドトリップに参加した学生の発表のいくつかです。
- トリチウムの安全性が賛否分かれることを受け、福島第一原子力発電所(以下、1F)の浄水処理について疑問を抱いた。
- ビデオや書籍より、津波によりどういった被害があったかは理解していたつもりでいたが、実際に壊滅された魚の孵化所を見て、この事実がより現実的となった。
- 福島の津波の被害を見て、広島の原子爆弾の被害を思い出した。広島は戦争の話・過去の話として振り返られるが、福島は近年、自然の力によって起こった災害であり、福島の1F 事故に関しては、広島のように平和記念としてでなく、どこでも起こりうる教訓として捉えるべきだと感じた。
- 立入禁止区域となってしまった地域に住んでいた人達の中でも、今でもその地域に戻りたいと望む人がいれば、二度と戻りたくないという人もいるように、意見が分かれる。1Fの抱える課題や、その周辺の地域が抱える問題などについて、改めてそれらの複雑さを感じた。
- (1Fにおいて、15mもの津波が押し寄せてくるという確率はかなり低いとされ、それを想定した準備がされていなかった事に対して)確率はあくまでも確率でしかなく、その数字だけを見ていてはいけないと思った。
学生一人一人のCritical Reflectionを聞いていて、同じフィールドトリップに関する発表であっても、学生それぞれ、心が揺さぶられた点や感じ方が違うという事が印象的でした。
Problem Discoveryでは、様々な “音” から分かるその場所・環境のサステイナビリティについて考えました。
洗足池の近くに住んでいるある学生は、そこで聞こえた鳥や白鳥の声が人々をリラックスさせている事を話しました。大学の食堂でこのアクティビティを行った学生は、お昼時とそれ以外の音の大きさの違いに耳を傾け、人々の話声が食堂の活気の良さを象徴し、食堂は学生達の息抜きの場となっていることを指摘していました。東京の自動販売機の多さに注目した学生は、それによる機械音が人々の生活を支える音だというコメントを残していました。
普段は目で見える情報に焦点を置きがちですが、私たちの生活は様々な “音” で囲まれています。そして私たちの行動も、意識はしていなくても、 “音” に左右されていることが多くあります。 “音” に注目するこのアクテビティは、行き慣れた場所を、初めて行った場所を、普段とは違った観点から考えるきっかけとなったようです。
これらの発表後は、Ruth先生によるアセットベースのコミュニティ開発(ABCD: Asset-based community development、以下ABCD)の講義が行われました。ABCDとは、コミュニティの持続可能な開発の為の方法論です。この方法論では、文字通りコミュニティのアセット(資産)を、開発の基礎として取り入れていきます。アセットとは、以前Kennedy教授の講義でもありましたが、既に存在する資源や潜在能力を指します。
このABCDがどのように特徴的なのかを理解していく為、Ruth先生の出身地でもあるジョージア州のChambleeを例に、ニーズベース(Needs/Deficits-based)のコミュニティ開発と比べながら、ABCDを見ていきました。Chambleeを用いたこのケーススタディでは、以下の4点をRuth先生と共に考えていきました。
Needs/Deficits: 渋滞、高い犯罪率、老朽化した産業基盤
これらに対する解決策: 公共交通機関の開発、警察官を増やす、公共事業や政府の補助金
Assets: 政治的に活発である、多様性がある、地元のビジネスが活動的である
これらに対する解決策: 選挙を通して自治体に圧力をかける、環境への意識を高める など
このように、ニーズベースではそのコミュニティの欠点を重視し、その解決の為に外部の機関や資源を用いるのに対し、アセットベースではコミュニティ内の既存の強みを磨くことに重点を置いています。
その後、Ruth先生は個々に自分の出身地、またはよく知っている場所のABCDについて考えるよう、時間を設けました。Ruth先生は学生一人ひとりに声をかけ、彼らの質問に丁寧に答えていました。
記録:庄司 (Kanaha Shoji)
2018年5月ジョージア工科大学、環境工学部を卒業。JSPSD2018を研究員として補佐。